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キャスト対談
第四回 興津和幸×津田美波×子安武人



全12話の放送が無事終了したのを記念して、第1回に登場したイド役の興津和幸さんと、
ミクリ・マヤ役の津田美波さんが再び登場! 
さらに、本作のキーパーソンである“仮面の男”ことアダムス・フォルテ・シュヴァリエを演じた
子安武人さんも加わって、3名による鼎談が実現しました。

これまで明かすことのできなかった、物語の裏側に隠された各キャラクターの心情や、
それぞれが印象に残ったシーンについて、ネタバレ全開で語ってくれていますので、
アニメ本編をまだ見ていない方はご注意を!
■やっとすべてを話せるようになって、ホッとしています
――ではさっそく、全12話を最後までご覧になった視聴者の皆さんに、今のお気持ちを聞かせてください。
津田さん:キャストの私たちも、想像していなかったような展開になりました。
     イドの秘密をようやく皆さんにわかっていただけて、
     そしてマヤとしてこの作品に関わることができて、本当に良かったなと思っています。

興津さん:やっとなんでも話せるようになって、僕もホッとしています。
     全話を見終わった皆さんは、イドのことが好きですか? 
     きらいですか? 教えてください(笑)。

子安さん:たぶん半々だよ(笑)。

興津さん:半々かぁ……。

津田さん:イドさんは悪くないと思うんですよね。
     ケイン・アリスガワが、ちょっと悪い人だったんじゃないんですか?

興津さん:谷口監督にも「全部ケインに背負わせますから(イドは)大丈夫ですよ」と
     言われたんですけど、ホントにそれでいいのかなって思ったりもしますよね。

子安さん:イドはずーっとお酒を飲んでいて、我を忘れているみたいな状態だったんだよ。

興津さん:でも、フッと素面(しらふ)に戻る瞬間があるんですよ。
     その時に、そばにマヤさんがいてくれないと、イドはおかしくなるんだろうなって、
     12話まで録り終わってそう感じました。

子安さん:何をここで告ってるんだよ!(笑) 
     僕自身はとても楽しかったですし、すべてを見終わった皆さんもきっと、
     すごく楽しんでもらえたんじゃないでしょうか。
     それはやっぱり、谷口監督と脚本の黒田さん、そして制作を担当したサンジゲンさんの
     素晴らしいコンビネーションのおかげですから。とてもいい作品だったと思います。
     

■演じている興津さんも、イドの過去を知らなかった
――収録が進んでいく間、興津さんは先の展開やイドの正体について、まったく何も知らない状態だったとお聞きしたのですが。
興津さん:そうなんです。現場で「教えてくださいよ」と言ったら、
     「えっ、知らないとお芝居できないの?」って、子安さんに言われたんですよ(笑)。

子安さん:それは谷口監督の意図なんですよ。
     「イドは記憶喪失なので、役者も何も知らないほうがいい」と。

津田さん:興津さんだけじゃなくて、出演陣で先のことを知っていたのは、
     子安さんだけだと思います。

子安さん:僕が演じているアダムスは、すべてを知っている人物ですから。
     監督も僕にだけはなんでも教えてくれると言われたので、
     スタジオに居残りして、もう根掘り葉掘り聞いていました。

興津さん:そうなんですよ。だから現場では、子安さんがいつもニヤニヤしているんです。

子安さん:収録中に「興津くん、これはどう思うの?」と聞いて、
     彼が答えたら「へぇ、そんなふうに考えてるんだ。でもちょっと違うな」
     って言ったりしてね(笑)。
     僕は皆さんのお芝居を俯瞰して見ているような感じで、
     すごく気持ちのいい位置にいさせてもらいましたね。

――興津さんとしてはイドの正体について、いろいろと想像されていたのですか?
興津さん:実は最初にもらった資料に
     「仮面の男のCGモデルは、ケインのモデルに仮面をつける」って書いてあったんです。

子安さん:そうなんです。だからある程度は予想できるんですよ。

興津さん:しかも僕はオーディションで、イドとケインの声を両方演じたんですよ。
     ところが第2話の収録で、ケインの声は緑川光さんだとわかって。
     「僕がケインをやらなくていいんですか?」と監督に聞いたら
     「あっ、イドさんは知らなくていいんです」と言われちゃって(笑)。

子安さん:僕も最初は、興津くんがケインをやるのかな? と思っていたんですけど、
     それだと声を聞いた段階で、イドの正体がケインだとわかっちゃいますよね。
     それに普通に考えたら、
     アダムスだって興津くんが演じてもおかしくないわけじゃないですか。

津田さん:身体は全部同じですからね。

興津さん:そこで見事な設定だなって思ったのが、
     イドはIマシンだから声が違っていてもおかしくないってところなんです。

津田さん:あっ、なるほど!

子安さん:Iマシンのスピーカーから出ているのが、興津くんの声だったということなんだ。

興津さん:自分はこの声がいいなって、ケインがプログラムしたんですよ、きっと。

子安さん:(笑)。


■アダムスのイドに対する感情は“愛情”だった!?
――子安さんに質問します。最初は“仮面の男”として登場するアダムスですが、演じてみていかがでしたか?
子安さん:アダムスは最初のうち、その回の物語とは直接絡まずに、
     ぜんぜん関係ない話をしているじゃないですか。
     視聴者的にはどういう人だかよくわからないので、それが歯がゆかったですね。
     だから早くイドと絡みたかったんです。
     2人が直接絡めば、すごくおもしろくなることはわかっていましたから。

興津さん:子安さんが「そのうち(2人で)戦うから。バトルあるから」って、
     収録の合間にちょくちょく言ってくるんですよ(笑)。

――実際に後半は、大バトルでしたね。
子安さん:もうスゴかったですよ。

興津さん:奇妙な友情関係でしたね。

津田さん:それは作品が違います!(笑)

子安さん:谷口監督にアダムスとイド(ケイン)の関係性を聞いたら、
     「友情というより愛情です」と言われたんですよ。
     「アダムスは同性のことを好きになるタイプなんですか?」と聞き返したら、
     監督は「そうです」と言い切っていました。

――そう聞くと、またいろいろと違って見えてきますね。
子安さん:それを聞いて、すべてがつながったんです。
     それまで僕としては、どうしても気持ち的に納得しきれないところがあって。
     いくら相手が天才であろうと、
     きらいな人の身体を借りて生活するのはイヤじゃないですか。
     谷口監督にも「僕はイヤですね。だって気持ち悪くないですか」と言ったぐらいですから。
     でも「愛情だ」と言われて、それなら納得できると思いました。
     もちろん表面的には、そこまで描かれてはいないんですけど。

      それを聞いたあとからは、アダムスの内面的なお芝居も、
     ちょっと女性的な絡み方をしているんです。
     「なんで私の気持ちをわかってくれないの!?」みたいな。

興津さん:イドとしては冷静に、2人で世界を救う話をしようとしているはずなのに、
     違和感がありましたもん(笑)。
     イドとアダムスが会話するシーンで、それまではスムーズに話せていたのに、
     感情的になった瞬間から、会話をできなくなったシーンがあったんですよ。
     「あれ!? この人おかしい」って。後で愛情がらみのことだと話を聞いて、
     「だからなのか」と、すごく納得できましたね。

子安さん:イドのほうは、そのつもりがないわけですからね。
     2人のやり取りの向こう側に、
     そういう裏の気持ちみたいなものがあるのを見てもらえると、
     非常におもしろいんじゃないかと思います。
     

■悪いのは全部アダムス? それともイド?
――津田さんからご覧になって、この2人というか3人というか、複雑な男たちの関係はどう思いますか?

津田さん:私というかマヤにしてみれば、知っているのはイドさんだけなので。
     ケインのことは知らないし、アダムスのことはよくわかりませんし。
     マヤから見ると、悪いのは全部アダムスですから。

子安さん:あれっ? なにか悪いことしましたっけ?

津田さん:イドさんを撃ったじゃないですか!

子安さん:イドはきらいだから。

興津さん:それは愛情の裏返しでしょ?

子安さん:手に入らないものは消してやる! って感じですね(笑)。

津田さん:マヤはイドに固執しているというか、この人はイドだと信じて疑っていないし。
     アダムス本人は人類を救おうとはしていたけれども……。
     最終回を迎えたものの、これでよかったのかなぁ? という思いは残っています。

興津さん:最後はアダムスも、自分のことしか考えていないですけどね。
     「俺の人生を完結させてくれ!」って。

子安さん:自分が誰なのかわからなくなっちゃったわけですよ、あの人は。
     数十年間をケインの身体で生きてきて、
     自分がケインだと思いこむようなところもあったので。
     でも最後は、アダムスである自分を取り戻しましたから。
     あれはかっこいいシーンだったと思います。

津田さん:私はケインとイドの最後のシーンが好きでした。
     ケインはもういないんだ、この人はイドなんだと認めるところが特に。

興津さん:見方によってはまったく変わってくるんですよね。
     収録の合間に、いろんな人から「イドはひどい男だ」と言われましたよ。

子安さん:イド……というよりも、ケインがひどい男ですよね。
     だからこそ、人間はやり直しがきくんだとも感じましたけどね。
     過去にどんな悪党だったとしても、心を入れ替えたのなら認めてあげなさいって。
     別に改心したわけじゃなくて、記憶を失っただけなんだけどね(笑)。

興津さん:ケインだったころのことを思い出しちゃうと、ツラいんですよ。
     そんな時に、そばで「あなたはイドさんなんですよ」と言ってくれる人がいるから、
     自分を保っていけるわけで。

子安さん:ちゃんと傷を舐めてくれる人がいるんですよ。
     そういう観点ではハッピーと言えなくもないエンドですよね。

■無数のアダムスが合掌しながら飛んでいくところが、気になっています(笑)
――これまで伺った、イドとケインとアダムスの関係以外のところで、「これは驚いた!」という展開はありましたか?
興津さん:“ラジーブ”がプロデューサーの名前だったのには驚きました(笑)。

津田さん:あれは驚きましたね。「ラジーブさんがホントにいる!」って。

子安さん:プロデューサーの名前を、よくも悪役に使いましたよねぇ。

――悪役というか、ものすごい物質でしたけど。
津田さん:長老が最後にあんな死に方をするとは思いませんでした。
     死んでいるのかどうかすらもわからないですけど。いきなり爆発しちゃったので。

子安さん:もうダメだ!! と思った次の瞬間には爆発する。あの潔さは素敵でしたね。

津田さん:あと私は、リックとアマンザがいい感じになるとは思わなかったので、ビックリしました。

子安さん:えっ、ホントに!? 僕はあの2人が会った瞬間から、最後にまとまると思っていましたよ。

――第3回の対談で、リック役の松風雅也さんも「最初から2人が一緒になると思っていた」という話が出ていましたね。では次に、全12話のなかで特にここが印象的だったというシーンは?
子安さん:といっても、僕たちはアフレコを終えてはいますけど、
     この対談が行われている段階ではまだ、完成した作品を見ていないんですよ(笑)。

興津さん:僕はまだ、第2話までしか見ていないんです。

――そうなんですね。では、早く映像で見てみたいというシーンは?
津田さん:私はあそこが気になっています。アダムスがいっぱい出てくるところ!

興津さん:ものすごい数のアダムスが、
     合掌しながらラジーブに向かって飛んでいくところですよね(※編注:第11話)。
     あそこは早く映像を見てみたいですよねぇ。
     はたしてカッコイイのか、それともおもしろいのか(笑)。

子安さん:おもしろいに決まってるじゃないですか(笑)。

興津さん:僕は、「俺はエスカベイターのイドだ!」って叫んで、
     マスクをつけてマインドトランスするところ(※編注:第10話)を、早く見たいですね。
     顔に何かをつけて変身するのって、イイですよね。

津田さん:私は、アマンザを初めて見たリックの目が
     キラキラするところが早く見てみたいですね(※編注:第3話)。
     リックがすごくかわいいんですよ、恋しちゃった~! っていう感じが。

子安さん:僕はクライマックスの、アダムスとイドが戦うところ全般ですね。
     あそこは自分でかなり入り込んでいましたから。もう本当に、無の境地ですよ。
     アフレコしている瞬間に、勇者ア●ンと合体してデ●ルマンになれるぐらい(笑)。

     それぐらい入り込んでアフレコしていたので、トチった時が大変でしたね。
     気持ちを切ることができなくて、
     とにかく自分の中にあるものを出さなきゃいけなかったから、
     そのままデカい声で叫んじゃうんです。「もう、バカーッ!」って(笑)。
     そこまでやりきらないと、止まらないんですよ。

津田さん:急に「バカーッ!」って叫ぶので、出演陣がビックリしていました。
     でも、気持ちはすごくわかります。

■アフレコでは、同じセリフを2回言ってもオッケーだった!?
――津田さんは『ID-0』を制作されているサンジゲンのスタジオに行かれて、クレア役の金元寿子さんと一緒に内部の様子をレポートされていましたが?
津田さん:大勢の人たちが一斉にPCに向かって、すごく細かく作業されていて。
     とにかく会社の中がシーンと静まりかえっていて、私たちがお邪魔していいのかな、
     という雰囲気で緊張しました。

――実際にCGを制作されている様子をご覧になって、いかがでしたか?
津田さん:すごく新鮮でした。
     実際の制作現場に行くのは初めての経験だったんですけど、
     こんなに大勢の方々の手で作品が作られているというのを間近で見られたのは、
     役を演じる上でもよかったですね。

――本作のアフレコは、3DCGならではの収録の仕方になっていたそうですが?
興津さん:そうなんです。収録の最初に毎回、
     「絵に引っ張られずに、自由に演技してください」という文字が大きく出てくるんですよ。
     僕らの声に合わせて、あとからCGのほうを修正してくれるので。

津田さん:サンジゲンさんでお話を伺ったんですが、
     たとえばカーラ機の動きは大原さやかさんの声に合わせて、
     ちょっと大人っぽい女性の動きに変えるなど、
     本当に私たちのお芝居を反映してくださっているんです。

子安さん:しかもCGを引っ張るぐらいの感じで、
     ふだんよりオーバーな演技にしてほしいと、
     最初に言われていましたから。
     だから皆さん、芝居が大きいんですよね、総じて。

――子安さんや、グレイマン役の小山力也さんといったベテランの声優さんが、ふだん以上に大きなお芝居をされていると聞くと、視聴者としては圧倒されますね。
興津さん:できあがったものの3倍ぐらい大きいですよ、すぐ横で聞いていると。
     それが完成すると、ちょうどよくまとまっているんです。
     子安さんに至っては、同じセリフを2回言ってましたから。

――どういうことですか?
子安さん:ある時、1回セリフを言ったんですけど、なんだか上手く言えなくて。
     それで、そのままフィルムは流れているんだけど、もう1回同じセリフを言ったんです。
     ぜんぜん関係ないところで。なんの断りもなく言ってのけました(笑)。

興津さん:自分の好きな間でお芝居ができるんです。

津田さん:それでもぜんぜん、直しがないんですよ。

――それはスゴいですね!
子安さん:とにかく役者の芝居が最優先で、他のアフレコではやらないようなことを、
     この作品の現場ではできたんです。そういうところはおもしろかったですね。

■イドとマヤの間に恋愛感情はある? それとも……
――物語は全12話で完結しましたが、登場人物のその後で、気になる人はいますか? 興津さん:イドがいつまで「自分はイドだ」と言い続けられるのか、心配ですね。
     「イドさん」と呼んでくれるマヤは、別のところにいますから。

子安さん:2人の間に恋愛感情はあるの?

興津さん:ないです。

子安さん:なんでそんなに、きっぱりハッキリ言うの(笑)。そういう感じじゃないんだ?

興津さん:そういう目で見ちゃうと、また違った関係になると思うんですよ。
     俺のこの悪い部分を全部マヤに伝えて、それでも受け入れてくれるのか?
      という話になるので。
     「俺は人類の9割を滅ぼそうとした男だが、それでも好きか?」って。

――そう言われたら、マヤはどうします?
津田さん:う~ん。マヤは「イドさんはイドさんですから」っていう感じなので。
     マヤ自身はイドのことを好きだと思うんですよ。

子安さん:相手はでっかいロボットなのに? 
     あっ、でもイドが人間に戻った時に、マヤはけっこうときめいていたよね。

興津さん:それを撃ったから、アダムスはマヤに嫌われているんですよ(笑)。
     「せっかく人間になったのに!」って。

子安さん:きっと妄想していたんだよ。イドさんは人間に戻ったら美形なんだろうなって。

津田さん:そうしたら、本当に美形だったので。

興津さん:じゃあ、サム・テイラーでもいいじゃん。あの人も同じ顔をしてますよ。

津田さん:いやいやいや、そういう問題じゃないでしょう!(笑)

子安さん:そこですよ。器と中身のどちらが大事なのか。
     人間とは何なのか、何をもって人間と呼ぶのか。

――ちゃんと作品のテーマにたどり着いてまとめていただいたところで、最後に、全12話の放送は終了しましたが、改めてファンの皆さんにメッセージをお願いします。
子安さん:見終わった人たちの間で、作品を振り返って話し合ったり、お互いに考察し合ったり、
     作品に対するいろんな感情を、いつまでも持ち続けることのできる作品だと思います。
     今度はアダムス目線で見直していただいて、
     「アダムスって実は主役じゃないのかな?」
     と思ってくれる方が3人ぐらいいてくだされば、
     僕はもうそれで本望です(笑)。

津田さん:12話まで見ていただいて、ありがとうございました。
     最後まで通して見ていただくことにすごく意味のある作品だと思うので、
     本当に感謝しています。
     私たちも精魂を込めて作った作品ですので、
     マヤたちが今後どうなるのかといったことをぜひ想像しながら、
     これからも愛していただければと思います。

興津さん:全部見てくださった皆さんの心に何か残っていたなら、とても幸せです。
     あっ、1つ忘れてました。
     イドさんのマフラーと左手の赤い包帯はなんだったのか、
     その謎が解けていないので、いつかどこかで明かしてください(笑)。
     その日をお楽しみに。どうもありがとうございました。

――ありがとうございました。